街をもっと楽しむために。
トーキョーバイク流、自転車との付き合い方

スタイリッシュなフレームに、ヨーロッパ車のようなカラーリング。2000年初頭に颯爽と現れ、日本の街乗り自転車のイメージを大きく変えたのが、トーキョーバイクです。2020年には福岡にも店舗ができ、日本各地でそのチャーミングな姿を見かける機会が増えました。今回は、代表の金井一郎さんを訪ねて、フラッグシップ店である東京・清澄白河の店舗「TOKYOBIKE TOKYO」を訪問。スタッフから“きんちゃん”と呼ばれる金井さんの柔らかい語りで、街と自転車の関わりとその魅力を語っていただきました。

株式会社トーキョーバイク金井一郎さん

東京の街に特化した自転車が欲しい

–本日はよろしくお願いします。先ほど、レンタサイクルをさせてもらい、トーキョーバイクに乗って清澄の街を走ってきました。見た目がおしゃれなだけでなく、とても軽くて、乗りやすいですね。
ありがとうございます。東京の街を走っていると、坂や信号が多くてストップアンドゴーを繰り返すことになるので、漕ぎ出しは軽くしてあるんです。トーキョーバイクは、東京の街を走るために一から考えて作った自転車です。山を走るのがマウンテンバイクなら、東京を走るのはトーキョーバイク! そういう思いつきで、名前から先にできたブランドなんですよ。

–なるほど。確かに、快適な街乗り専用の自転車って、あまりないですね。
ええ。トーキョーバイクを発表した2000年当初は、自転車といえば本格的なロードバイクやマウンテンバイクで、街乗りだとママチャリ。その中間がなかったんです。本格的な自転車は、限られた人の趣味。でも、最高速を出したり、ツーリングしたりするだけが自転車の楽しみじゃない。ファッションを楽しむように、自分のお気に入りの自転車で、近所を気持ちよく走りたい。そんな気分にフィットする自転車があったら、受け入れてもらえるんじゃないかと考えて。でもそんなブランドは存在しなかったので、だったら自分で作ってしまおうと思ったんです。余計なものは削ぎ落として、街乗りのしやすさに特化して。オリジナルはフレームだけで、あとは信頼できるメーカーのパーツを組み合わせながら、壊れなくて長く愛着の持てる自転車にしていきました。

トーキョーバイクには基本の7型があり、乗る距離やギアの有無、乗りたい姿勢などで絞り込んでいく。カラーは1型につき2〜6色あり、限定カラーも。近年はキッズバイクも人気。

-金井さんは、昔から自転車マニアなんですか?
いえ、実は全然そんなことはないんですよ。最初はバイク関連の輸入商社に就職して、その後は先輩の手伝いで自転車の高級パーツのネット通販事業を始めました。だから周りには自転車マニアも多かったですけど、私自身は、お酒を飲んでブラブラと街を歩くのが好きなタイプで(笑) 自転車とはこうあるべきという先入観がなかったので、自分で作るなら街乗りで使いやすいようにと無駄を削ぎ落とし、好きなカラーにして、乗ったら気持ちが軽くなるようにと考えていきました。
トーキョーバイクにはスタッフが参加する色決め会議があります。それぞれが推しの色を持ち寄って、プレゼンして、工場で試作もして、採用に至ることも。従来の自転車にはあまりなかった自由なカラーリングは、スタッフのセンスでもあるんです。この清澄の店舗にも、スタッフのアイデアがたくさん詰まっています。

2021年7月にオープンした、トーキョーバイクの旗艦店「TOKYOBIKE TOKYO」3階建ての倉庫を丸ごと使い、メルボルンのプラントショップ「The Plant Society Tokyo」や、アジア産スペシャルティコーヒーを提供する「ARiSE COFFEE PATTANA」も併設。清澄白河の新名所として賑わっている。

自転車屋らしくなくていい

-空間が広くて気持ちいいですし、コーヒー屋さんやプラント屋さんも入っていて、ついつい長居してしまいそうです。
私たちはいつも人との繋がりを大切に考えていて、2軒とも縁があって入っていただきました。それから自転車だけでなく、バッグや靴など日常で使うものも私たちでセレクトして取り扱っています。従来の自転車屋さんは女性が入りにくい雰囲気があったと思いますが、ここは人が自然と集まれるようなスペースを目指しています。

-福岡にも店舗ができましたね。
はい。私たちの出店計画は、マーケティング的に調査して行うというよりはコミュニティー重視なので、人の行き来が生まれ、活性化しそうな街かどうかが大事なんです。福岡は、以前に社員旅行で行った時に福岡の街の人とたくさん繋がって、それがとても心地よくて、吸い寄せられるようにして店ができましたね。

-トーキョーバイクの姿勢を表しているエピソードですね。
トーキョーバイクの本店は、清澄白河の前は東京の谷中にありました。谷中もまた、地元の人やそこでの暮らしぶりに惹かれて、出店したんですよ。ブランドの立ち上げ当初は、私たちのお客さまは東京の西側のエリアが8割だったので、谷中を本店にするのは、意外に思われたと思います。でも、当時私は40歳ぐらいで、下町の気楽さがすっかり気に入ってしまったんです。結果的にはそれが正解だったようで、近所にたくさん知り合いができて、自転車屋なのに茶飲み話ができるスペースになりました。そして今回の清澄白河も、きっとそうなります。同じような匂いを感じたからです。福岡もそうなるといいなと思いますね。福岡は、街の規模も、人の持つ雰囲気も、最高に自転車に向いている街だと思いますよ。

2020年8月には「Tokyobike Plus 福岡」がオープン。運営会社が別なため直営店ではないが、トーキョーバイク専門店としては東京都外で初の店舗。金井さんと一緒に走るモーニングライドもすでに開催したという

点ではなく線や面で、街を感じる

-あらためて、金井さんにとって自転車とは何かを、教えてください。
自転車は、「暮らしを楽しくしてくれる道具」ということでしょうか。うちは自転車メーカーですが、自転車だけで完結するものではないと思っています。あくまで暮らしの豊かさが中心にあって、それを支えるものとして自転車があるのが理想です。自転車だけでは足りなくて、そこに街と、乗る人がいて、初めてトーキョーバイクの活動が意味あるものになります。だから、この清澄白河のショップも、自転車の販売だけでなく、私たちが考える良い暮らしそのものを伝えるように設計しているんです。

-金井さんが考える、自転車のある暮らしの魅力とはどんなものですか?
私たちがトーキョーバイクを始めた頃、まだ東京で通勤に自転車を使っている人は、ほとんどいませんでした。でも、通勤を電車から自転車に変えてみると、毎日見る景色が変わるし、身体の使い方も変わります。電車は点と点の移動ですが、自転車は線で移動でき、気軽に寄り道したり新しいものを発見したりと、街を面で感じることができます。その良さに気づいたから、東京で自転車に乗る人が増えたんじゃないでしょうか。自転車を持つと、生活をガラッと変えることができる。「自転車が人生を変える」というほど大袈裟にはしたくないですが、住んでいる街を楽しく感じられるのは良いことだし、そういう暮らしができたら幸せですよね。自転車には、そんな魅力があるんじゃないかと、20数年続けてきて、あらためて思っていますね。

-本日はどうもありがとうございました!

[取材を終えて]
どこかヨーロッパを感じるクリーンなデザインで、見かけてからずっと気になる存在だったトーキョーバイク。今回、試乗させていただき、また金井代表の想いに触れ、その人気の背景を知れたように感じました。急なストップや、ガタガタとした側溝と道路の段差も、ものともしない軽やかな乗り心地。小回りが効いて、加速すればスッと伸びていく気持ちよさ。誇らしい気分で自分の街を走れる自転車だと感じます。金井さんやトーキョーバイクのみなさんが、街をどんなふうに楽しんでいるのか、もっと知りたいと思える取材になりました。

金井一郎(かない・いちろう)さん

株式会社トーキョーバイク代表取締役。1962年生まれ、東京(高田馬場)出身。大学卒業後、オートバイの輸入商社や自動車関連の会社で働き、後に自転車販売サイトを立ち上げて独立。当初はパーツの販売のみを行なっていたが、街乗りに特化したオリジナル自転車「トーキョーバイク」を開発。東急ハンズやオッシュマンズなどで取り扱いが始まると人気に火がつき、店舗を展開。現在は国内4店の直営店のほか、世界を含めて200店舗以上の取り扱い店舗がある。趣味は、お酒の飲み歩き。