withコロナ時代に再考したい、
自転車×都市の持続可能性

人口減少社会の只中にある日本の地方都市の中でも、例外的に人口が増加傾向にあり、街の活力を感じる福岡市。その勢いを作り出す要因のひとつに、福岡地域戦略推進協議会(FDC)の存在があります。FDCは、産官学民が一体となって、地域課題を解決し、活性化を促していく組織。事務局長の石丸修平さんは経産省、プライスウォーターハウスクーパースで活躍した後にFDCへと参画。そんな石丸さんに、産官学民を巻き込んだ街づくりの方法と、都市における自転車活用の可能性について伺いました。

官と民が補い合う街づくり

– 本日は、どうぞよろしくお願いします。まずは、FDCの設立のきっかけを教えていただけますか?
はい。福岡地域戦略推進協議会(FDC)は、2011年に設立されました。当時は、東日本大震災の直後で、福岡に限らず日本全体で景気が落ち込み、どうやって地域を支えていくかが問われるタイミングでした。その中で、地域の活性化や地域課題の解決のためには、産官学民が連携し、新しい知恵を出して社会実装にまで持っていく必要があると。産官学民とはそれぞれ、産が「民間」、官が「行政」、学が「大学など教育機関」、民が「市民」を指しています。公共のリソースだけでは足りない時に、民間のビジネスと連携したり、市民を巻き込んでボトムアップの街づくりをしていきたい、そんな思いから立ち上がった組織が、FDCです。

– 石丸さんご自身は、立ち上げの2年後の2013年から参画されています。どんな経緯だったんでしょうか?
私はもともと福岡・飯塚の出身なんですが、当時はプライスウォーターハウスクーパースにいて、課題解決のためのコンサルティングや事業の社会実装を支援していました。民間なので、収益性も維持しながら地域と調整をし、事業に落とし込むということを担当していて。それがまさにFDCの役割とも重なっていた中で、九州大学のための講義で福岡に滞在中に「地元のために、福岡に帰って来てFDCに参画しないか」と声をかけてもらったんです。

– なるほど。FDCでどのような活動をされてきたのですか?
福岡市は2014年に国家戦略特区の認定をされましたが、これはFDCと福岡市が連名で申請をして実現したものです。というのも、地域の将来のビジネスづくりには規制緩和が必要だとわかっていたからです。民間の事業を作るだけなら、民間ですればいい。しかし地域課題を解決する事業を、民間の力で主導し、事業計画や投資判断もクリアしていくためには、公共政策との連動が不可欠。そこに私たちFDCの存在意義もあります。必要なら条例改正をしたり、公共インフラを整備するなどして、行政の街づくり計画に則りつつ民間の事業としても成立させるように計らっています。

– 具体的にはどんな計画があるのでしょうか?
象徴的な例でいうと、福岡・中洲にある水上公園があります。ここは、天神と博多という、福岡の2大都市圏の間にある、ウォーターフロント地区に位置しています。FDCでは、このウォーターフロント地区を福岡における3つ目の都心として定義し、この3カ所の回遊性を 高める都心再生戦略を作りました。リバーサイドやリバーフロントはポテンシャルが高いのにもかかわらず、これまで上手に活用されていなかった現状がありました。基本的に公園は行政が所有しており、民間が投資できずに、活用が進まなかったんです。そこで、市が土地を民間に貸し出す形で、民間の事業者が参入してビジネスできるようにし、かつ市民が憩える公園としての機能も確保しました。税金で管理するのではなく、民間の活力を使いながら、地区全体として活性化を促す事例となったと思います。

中洲の水上公園。「夜の街」のイメージが強い中洲の突端に、人気のある飲食店やフリースペースが設けられ、昼間に家族連れも集える空間へと変出させた。ウォーターフロント開発の新しいランドスケープを提示している。

– 公園というパブリックスペースをどう確保していくかは、街づくりにおいて重要ですね。ニューヨークのブルックリンなど、最近は公共のお金も入れながら、民間がハイスピードで動かして街をつくったり、ビジネスが生まれるプラットフォームを整備したりという例が目立ちます。
ええ、そうですね。FDCは、公共空間のあり方を、都市の開発やリノベーションという文脈で考え直すのが役割でもありますので、さまざまな例を検証しています。地権者間の協議も必要ですし、収益性の確保も大事。それぞれの立ち位置を超えて、マクロに地域を見ながら調整するのがFDCの役割として大切だと思っています。地域の発展と持続可能性をマクロで見たときに、こんな機能やアクティビティが必要なんじゃないか、それを公共政策とも連動させながら展開していく。新型コロナウイルスの影響もあり、公共空間の使い方やニーズは、これから大きく変わっていくと思いますからね。

– これまで、街に何かを投資することは、結局その資金の回収を目的としていることが多かったと思います。しかしこれからは、社会課題と向き合い、その課題解決のためにサービスや技術を使う必要があるわけですね。
私たちもよく誤解されるのですが、FDCは都市の成長だけを志向しているのではありません。現在は増えている人口も、そう遠くない将来に減っていきます。人口が増える中で投資余力が増えている今こそ、将来に起こる課題に対して投資し、持続可能性を考えていかないといけません。「天神ビッグバン」という、天神の中心地にあるオフィスビルの建て替えプロジェクトが現在進行中ですが、これも開発によって容積を上げて効率化するという面ばかりが強調されると、ミスリードを生んでしまいます。天神のビルはすでに築45〜50年経っているものがほとんどですから、機能更新をしていかないと今後の変化に対応できない。民間にインセンティブを持たせて、民間主導で開発を進めることで、税金だけに頼らずに知恵を活かした都市機能のアップデートを目指しているのです。

市民が主体的に考える街づくり

– 先ほど新型コロナウイルスの話が出ましたが、このパラダイムの変化をどう捉えていますか?
はい。FDCでは4月17日に、「エール! FUKUOKA」というプロジェクトを立ち上げました。新型コロナウイルスの影響で経済が冷え込み、困っている人たちを支援するのが主旨です。飲食店舗の経営者にはテイクアウトやデリバリーができる場所を提供したり、街中の混雑状況が可視化できる仕組みを作り、安心感を担保した上で人の流れを作ったり。お金も含めた支援ができるように、会員企業を募るプラットフォームとして立ち上げたのですが、すでに予想を遥かに上回る数の企業が加わってくれ、社会貢献として互助会のような仕組みができつつあります。

– 今回のウイルスによって、街づくりや事業者が中長期的なビジョンを変更せざるをえないとなったときに、いろんな人がそこに集まって、考え始めていると。
そうですね。福岡にはもともと街が持っている強みがあって、それはコミュニティ活動が盛んで、地域で何かをするときに自然と人が集まる土壌があるということです。そうすると、従来の国や役所が決めていく方針とは違う、よりその地域に馴染んだ方法も出てくる。例えば、ひとつユニークな例があります。福岡県大牟田市の、ある地域の認知症対策なんですが。

– 興味あります。どんな話なんでしょうか?
認知症の症状の中でも徘徊は、家族への負担も大きく、行方不明や事故の可能性もあるので減らしていかないといけない。そこで、厚労省や地方自治体は、通常こう考えます。症状を軽減させ、介護度を下げていくことで、本人や周囲の人たちの負担を軽減していこう、と。そのために、身体を動かしたり、頭を使いましょうというアクティビティを促す。もちろん正しいアプローチだと思いますが、大牟田市のある地域の場合は少し違いました。安心して徘徊できる街にしようと、発想を転換したんです。

-安心して徘徊できる街! 面白いですね。
認知症の患者さんが徘徊して、自宅に突然訪ねてきた時に、どんな方法で対処するのがベストか。街ぐるみでコンセンサスができていれば、トラブルは防げますよね。徘徊を押さえ込むのではなく、安心して徘徊できる街は素晴らしいじゃないか、そういう発想が地域から出てきていいんだと思います。ある地域はそのように対策し、別の地域ではテクノロジーを駆使して徘徊を未然に防ぐ。そのように、地域やコミュニティのあり様に合わせた柔軟で多様な考え方が、大切だと思います。

– 市民が積極的に参加してプロジェクトが進んでいる例は、他にどんなものがありますか?
九州大学箱崎キャンパスの跡地をスマートシティにするという取り組みを支援しています。私をはじめFDCの職員が地域に通って、市民の意見をお聞きしながら支援を進めています。 例えば、自動運転のバスの導入を検討しているのですが、ニーズが高い半面、安全性において不安に思う人も一定数います。その時に、「じゃあ一緒に乗ってみましょう」と、社会実験に近い形で導入します。するとそこで、新たな知見が得られます。社会受容性を高め、市民の皆さんと一緒に評価していくようなアプローチが大事だと思います。

持続可能な都市を考える上で、自転車活用は不可欠

– 福岡はコンパクトシティと言われています。自転車の走りやすい街づくりについては、どのように進んでいるのでしょうか?
2014年から、福岡市でも自転車の走行ネットワークづくりを進めていて、10年間で100kmの自転車専用レーンの整備を目標にしています。福岡は道幅が狭く、道路の制約が多い地域なので簡単ではありませんが、今後の自転車活用は街づくりの大きな課題だと思っています。

– 「チャリチャリ」のようなシェアサイクルの環境づくりも進んでいますね。
このシェアサイクルを試験的に導入する際は、ずいぶんと批判も受けました。というのも、かつて福岡の問題のひとつに放置自転車数が全国1位というのがあり、「邪魔」「危ない」というネガティブな意見も多かったことから、街にとって自転車は悪だという認識が広がっていました。しかし交通混雑緩和のためには、自動車の交通量の削減と自転車利用が欠かせません。そこで都心部にも使いやすい駐輪場を整備したり、チャリチャリなどの新しいサービスを民間主導で導入し、現在は自動車との交通分担率も20%にまで上がりました。

– 自転車には、交通手段としてだけではない魅力もあると思います。
確かにそうですね。健康寿命の延伸にも繋がりますし、都市の豊かさを作り出すことにも貢献できると思います。オランダにおける都市空間と自転車の活用などは、私たちも参考にしています。コロナ以降、ヨーロッパの都市は自転車を活用しやすい街づくりに舵を切っていますね。今後の変化していく都市のニーズに合わせて、都市の持続可能性を高めていくことに自転車は大きく貢献できると思いますよ。

– 本日は、どうもありがとうございました。

1分につき4円で活用できるシェアサイクル「チャリチャリ」は、福岡の街中をサッと移動するのに最適。2020 年3月末時点で市内266カ所にポートがあり、自転車の貸し借りが自由にできる。今後は電動アシスト自転車も一部導入され、台数・ポート数ともに倍以上の数で対応する計画となっている。

[取材を終えて]
公共単体では実現しにくい要望やサービスを、民間の活力を上手に活用して実現していくF DC。事務局長の石丸さんには、これまでの実体験から、たくさんのヒントをいただきました。市民にとって生活しやすく、来訪者にとっても心地よく、活力のある街。そんな街を実現するために、自転車がどのように貢献できるのか、ともに考えていきたいですね。 (編集部)

石丸修平(いしまる・しゅうへい)さん

石丸修平(いしまる・しゅうへい)さん

1979年、飯塚市出身。経済産業省入省後、大臣官房政策評価広報課、中小企業庁長官官 房参事官室等を経て、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)に転職。2013年、福岡地域戦略推進協議会(FDC)に参画し、2015年4月より現職。九州大学客員准教授。アビスパ福岡アドバイザリーボード(経営諮問委員会)委員長、Future Center Alliance J apan(FCAJ)理事、九州大学地域政策デザインスクール理事、九州経済連合会行財政委員会企画部会長などを歴任。