地域文化を活かす商社が考える
「その土地らしさ」の守り方

福岡県南部に位置する八女市。伝統産業が多く伝わるこの地方で、食器、家具など職人たちの技術が活きる商品を多く取り扱っているのが、「うなぎの寝床」です。最近では、福岡県南部の筑後地方の久留米絣という綿織物を使った、日本のジーンズ「MONPE」(もんぺ)を販売したことで、全国的にもその名が知られるようになりました。ショップとはいえ、ただ商品を売るだけではありません。ここは、地域の歴史や文化を商品の販売や開発に活かしている「地域文化商社」。代表の白水高広さんに、地域文化の捉え方や小売業を始めたきっかけ、いま取り組んでいるツーリズムについて伺いました。

ものを介してネイティブな風景をつなぐ

– 本日はよろしくお願いします。まずは、うなぎの寝床の活動について教えてください。
主に筑後地方の伝統産業を活かした衣類、生活用品を販売するアンテナショップの運営や商品開発を2012年から行っています。現在は、日本全国の作り手の商品を200品ほど取り扱っている「うなぎの寝床 旧寺崎邸」、うなぎの寝床が開発したオリジナル商品「UNA PRODUCTS」を扱う「うなぎの寝床 旧丸林本家」、アーティスト作品を置いている「OHAKO 旧大坪茶舗」の3店舗を運営しています。
その他、オンラインショップとUNA PRODUCTSの取扱店舗が全国にあります。名前は八女市に縦に細長い町屋が多いことから名づけました。

筑後地方を中心に全国の作り手が生み出す商品が並ぶ「うなぎの寝床 旧寺崎邸」の店内。8年間でつながった作り手の数は184社にのぼる。

– 商社としてどういう特徴がありますか?
地域の歴史や土地の特徴を紐解いて、作り手と対話をして、商品が生まれる背景を掘り下げるようにしています。良い商品があっても、その価値が外の人に伝わらないと残っていきません。その土地や文化ならではの固有性や魅力を伝えることで商品を手に取ってもらいやすくなるし、作り手の方々の生活も持続させることができます。

うなぎの寝床の、地域文化と商社の関係図。地域の文化を歴史や土地から解釈し、商品の開発や販売につなげることで、文化を地域外に伝え、職人たちの生活と地域文化の存続を目指す。

– 人気商品はなんですか?
「MONPE」という、もんぺをリニューアルした商品です。元々はアメリカの鉱夫の作業着だったジーンズが、今は世界で広く穿かれていることから、日本で戦前から戦後にかけて婦人服・農作業着だったもんぺでも同じことができるのではないか、と思いついたんです。
また、筑後地方では久留米絣という織物の織元が今でも20軒弱残っていて、昔からもんぺの生地も織られていました。「久留米絣でもんぺを作ったら、穿き心地のいい日常着になるんじゃないか」と。今では、2パターンの型と様々な種類の布が組み合わさり、全部で160種類以上展開しています。本当によく売れていますね。

大人気商品「MONPE」。やや細身の「現代風MONPE」と、従来の型を使った「ファーマーズMONPE」の2種類の型がある。使う布の種類は、筑後地方で生産される久留米絣や他地域の織物、デニム地と様々。

久留米絣は古臭いというイメージが私にもあったのですが、実際に見てみたら面白い柄があったし、手織りに近い肌触りで柔らかくて丈夫なので、日常着にもぴったり。作り手の方から戦後にもんぺの生地として使われてきた歴史や、古い織機で織ることで独特の風合いと心地よさを生む生地が作れることを教えていただき、奥深さを感じました。
私たちは、都市に対する地方という意味で使われる「ローカル」と区別して、その土地らしさを「ネイティブ」という言葉で表しています。商品を売るのは、たとえば久留米絣の魅力を「MONPE」を介して伝える、つまりネイティブな風景をつないでいきたいという思いからです。そうした考えから「地域文化商社」と名乗っています。

ローカルとネイティブの考え方の違いを表した図。うなぎの寝床はネイティブスケープを生み出す場づくりを行なっている。

「型」を広めて、作り手・ものづくりの理解者を増やす

– ものを売る仕事をしようと思ったきっかけは何ですか?
大学では建築を学んでいました。当時、建築では「リノベーション」という考え方が少しずつ浸透していて、その考え方を受けて、小売りでも新しいものを作って売るのではなく、すでにあるものを活用するという発想に向かいました。

– なるほど。小売りに携わるなかで、課題に感じていることを教えてください。
伝統産業の存続です。作り手はどんどん減っているし、小さい工房などは当主が亡くなったら技術も引き継がれず、閉まることが多い。これまでのような、作り手、問屋、売り手、消費者が縦割りになっている産業構造そのものを変えないとなと思っています。

– 課題解決のアイデアはありますか?
作り手たちが持っているノウハウをファブラボのような形で共有していけないかと考えています。「MONPE」は「型」に人気があって、絣や着物生地で作りたいという声があったので、型紙だけの販売も始めました。そうすると、元々はユーザーだった人が、作り手になるわけです。

お客さんの要望を受けて、もんぺの型紙も販売している。

他にも、ツーリズムの一環として工場見学をしたり、知識や材料を公開して地域全体で産業を回したりできないかなと。ものの解釈がしっかりしていれば、作り手を増やし、育てていくことは可能だと思っています。

– 作り手を増やすには価値の伝え方も重要ですね。
BtoBでも個人でも、型を使って誰もが作り手に参入できるための共通基準として、ワインの産地認証システムを参考に「KATA憲章」を作れないかと考えています。KATAは「型」のことです。憲章を示しているところはちゃんとした生産者だと分かれば、作り手と買い手の両方に得があるはずです。

– 素敵なアイデアです!
それから、ショップも都市部に出すのではなく、工場や生産現場にカウンターを置いて、そこで販売できないかなと。「MONPE」は色んな生地で作れるので、お店でも履き比べできるようにしているんですけど、工房の中でそれができたらいいですよね。

身体全体で地域文化を感じるツーリズム

– 新たにツーリズムの会社も立ち上げられたそうですね。
8年間、小売として地域のものを消費者に渡すことをやってきましたが、どうしても一方的なやりとりになってしまっているなぁと。単なる消費で終わらせず、意識や行動に直接働きかけるには、身体を伴った文化体験がどうしても必要だと感じてます。そこで、ツーリズムとメディアで地域文化の本質を伝えるために、2019年に株式会社リ・パブリックと共に「UNAラボラトリーズ」という会社を立ち上げ、雑誌『TRAVEL UNA』を発刊しました。
『TRAVEL UNA』では、テキスタイルやお米から九州各地の文化を紐解いていますが、改めて地域それぞれ独自の文化があると感じています。ものづくりはもちろん、食文化、歴史、お祭りなど様々な要素からツーリズムを考えていきたいですね。
直近では、八女市の福島という地域の街並みと工房を巡るツアーを企画しました。今回は徒歩での散策ですが、いずれは自転車を使った企画も考えたいです。

八女市福島で行われた地域の街並みと工房を巡るツアーの様子。
photo: Koichiro Fujimoto

– うなぎの寝床には、レンタルサイクルがありますね。利用率はどうですか?
車で行くには近い、歩いていくには遠いところに作り手さんがいたり街のスポットがあったりするので、自転車がちょうどいいかなと。山田大五朗さん(Bike is Life 代表取締役)と出会った縁で、彼がつくる自転車を6台置いています。
ただ、用意しただけではあまり使われないのが正直なところ。まずは、見どころをまとめたマップや乗り方のルールを用意して「乗ってみようかな」と思ってもらうことが必要ですね。

– 自転車で観光する良さは何でしょう?
以前、自転車で一週間かけて北部九州を一周をした際に、自動車と比べて体感できる情報が圧倒的に濃いと感じました。阿蘇にはこれまで何度も車で行ってますが、気持ち良さがまったく違う。自転車にはアクティビティと都市交通の二面性があることが、他のモビリティにはない特徴だと思います。

– 今後の展望を教えてください。
小売でも観光でも、地域を循環させるシステムを作るという目標は同じです。ツーリズムは、生産者に直接会いに行けたり、八女はお茶が有名なので自分で茶葉をブレンドできるなど、訪れた人が直接地域文化に触れられる企画を考えていきます。ものをきっかけに地域を訪れる人、観光をきっかけにものや文化に触れる人のどちらも増やしていきたいですね。うなぎの尻尾と頭がつながるようなイメージで、進めていきたいと思います。

これからの地域文化をつないでいくための循環を表した図。ものを介しての地域文化の循環に加え、出版やツーリズムを含めた地域文化にまつわる人とお金の循環を構想。1から10までのサイクルを何度も繰り返すことで文化が広く伝わり、守られていく。

[取材を終えて]
地域の文化をつなぐために、アンテナショップの運営や商品開発など様々な活動を行っている、うなぎの寝床。地域のとらえ方や文化の伝え方について、独自の目線と切り口で次々とアイデアを生み出し、実行している白水さんの思考と行動力に大変刺激を受けました。これから本格的に始まるツーリズム企画からも目が離せませんね。

白水高広(しらみず・たかひろ)さん

白水高広(しらみず・たかひろ)さん

1985年佐賀県生まれ。大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業。福岡県の筑後地域の商品開発やブランディングを行う「九州ちくご元気計画」の主任推進員を経て、2012年7月にアンテナショップ「うなぎの寝床」を立ち上げ。2019年に、地域文化をより深く伝えるためにツーリズムとメディア制作を行う「UNAラボラトリーズ」を立ち上げる。現在、九州の地域ごとの特色を生かしたツーリズム企画や、町家を改修した宿のオープンに向けて活動中。