市に「自転車課」を立ち上げた
市議会議員に聞く、街と自転車の理想形

「元々は政治にほどんど興味のない普通のサラリーマンでした」。そう語るのは、福岡市議会議員を務める橋田和義さん。地元の街の再開発が行われることをきっかけに、2011年に議員に立候補し、当選。人々が安心して快適に暮らせる街づくりのために、これまで精力的に活動を行ってきました。
橋田さんが、現在力を入れているのが交通環境の整備です。行政の立場から、自転車、歩行者、車両それぞれが安心して移動できる街を目指し、福岡市の行政組織のひとつとして「道路下水道局自転車課」を立ち上げました。
「福岡を自転車の街にしたい」と語る橋田さんに、街づくりのこと、自転車の魅力を知ったきっかけや、これからの展望についてお伺いしました。

「40歳になったら公の役に立て」。祖父の言葉がきっかけで議員に

– 本日はよろしくお願いいたします。まずは、橋田さんが議員になられたきっかけを教えてください。
子どものころから、「40歳になったら公の役に立て」と祖父に言われていました。その年齢になったころに地元・六本松で大きな開発工事が始まり、地元出身の市議がいなかったことから周りに立候補を勧められたんです。状況と祖父の言葉が重なっていると感じ、選挙の2ヶ月前にあわてて立候補しました。
とはいえ、政治にほとんど興味がないただのサラリーマンだったので「がんばります」と必死に言うぐらいしかできません。それでも、地元の皆さんに「熱意が伝わるよ。お前に託そう」と応援してもらえたおかげで議員になれました。

– 議員になった年に市の組織として自転車課を立ち上げられました。理由を教えてください。
福岡市は人口に対して自転車の利用者数が多いのですが、自転車の管理や環境整備を行う部署がありませんでした。交通マナーが悪化している状況を、行政が予算をつけてハード面から改善できるようにしたかったんです。
駐輪場の整備や放置自転車の撤去など基本的な業務のほかに、2022年までに自転車通行帯を100km作る取り組みを行っています。

– 100kmですか! 長い距離ですね。
数字に満足してはいけないと考えています。大事なのは、本当に必要なところに作ること。自転車があまり通らないところに作っても意味がないですし、そうならないために計画の話し合いは真剣に何度もやっています。

– 確かにそうですね。他に取り組んでいることはありますか?
天神周辺の中心部まで自転車で走りやすい道を整備したくて、道路の状況を地図にまとめています。中心部は車が渋滞することが多いので、自転車は有用な交通手段になり得るはず。今は歩行者や自動車が入り乱れている区域が多いので、道ごとにどんなアプローチができるか考えているところです。

“自転車の熱”を感じた一大イベント「ツール・ド・フクオカ」

– 橋田さんが自転車に関わるようになったきっかけを教えてください。
議員になる前、サラリーマンをしながら福岡青年会議所に在籍していました。2010年に委員長に任命されたときに「スポーツを通じて街づくりに寄与できるイベントをやってほしい」と要望をいただいたんです。マラソンやほかのスポーツはすでにやられていたのでどうしようと考えていた時に、自転車がブームだと知って、これだと。こうして企画したのが「ツール・ド・フクオカ」です。

– どんな内容だったんですか?
福岡市中を自転車で回って、最後に東区のアイランドシティをゴールにするツーリングと、アイランドシティ内の外周1.5kmの公園をぐるぐる回るクリテリウム(注1)の全国大会を同時開催しました。
アイランドシティの街づくりが進んでいなかった課題を解決し、同時にスポーツツーリズムを実現したいという思いがあったので、マイペースに取り組めるツーリングと本格的な競技大会を同時に行うことで、幅広い層に参加してもらえたらと。

– 楽しそうですね。どんな人たちが参加したのでしょうか?
地元の人はもちろん、親子でのツーリング参加や鹿児島など他県からの参加もありました。事前に韓国のサイクルイベントに出場してPRをしていたおかげで、韓国をはじめ海外からも100人ほど参加してくれましたね。
ツーリングは、明太子のふくやや千鳥屋など、福岡の飲食関係の企業より30店舗ほど協力してもらい、お店に立ち寄ると商品がもらえるように計画しました。だから、みんなゴールするときはかごいっぱいに食べ物が入っていて(笑) なかなか盛り上がりました。
韓国のメディアにも取り上げられて、自転車で福岡に旅に出ようという動きが広がったし、観光庁から福岡を自転車で走れる観光都市にするための予算も分配してもらえることになって。当初に想定していたよりも大きな波及効果がありましたね。

– とてもいい試みですね! 市民の反応はどうでしたか?
多くの人に街中をサイクリングしてもらったおかげで、道ごとの走りやすさ、走りにくさについて多くの声をいただきました。実際に道を走ることで、みんなが街に目を向けてくれたと感じています。
アイランドシティの人口が増えたおかげで、イベントは2回目の2011年で幕を閉じました。寂しい気持ちもありますが、当初の目的が達成できたのは嬉しい限り。自転車が持つエネルギーを感じるとても貴重な機会にもなりました。議員になる前にフラットな気持ちで経験できたから、今の活動にも活かせている気がします。

注1…自転車競技のロードレースの一つ。1周4~5kmの小周回コースで、所定箇所での先頭賞や得点制を組み込んだ競技。

自転車で走りながら「フクオカの風」を感じてほしい

– これまで自転車課の立ち上げなど、福岡を自転車の街にするために尽力してこられました。これから力を入れたいことを教えてください。
シェアサイクル「Charichari(チャリチャリ)」を地元の人にもインバウンドの人にも活用してほしいです。サイクルポートであればどこでも借りて返せるので自分が所有しなくていいですし、自転車に乗るハードルが下がるはず。
3年前に実証実験を始めましたが、サイクルポートとして協力してもらっているコンビニなどの店舗は、自転車の貸し借りのついでにお店に立ち寄ってもらえて恩恵があると聞いています。お店側に協力してもらい停めやすい場所を作るなど、民間のインセンティブを確保しつつ行政として環境整備に取り組みたいです。

– 自転車を電車内に持ち込めるサイクルトレインも実現できたら、利用者としても助かります。
市営地下鉄の場合、地下に自転車を持っていくのが大変なのと乗車率が高いので他の乗客との兼ね合いが難しいんですよね。郊外を走っているJRなら、可能性はあるかもしれません。駅で降りても目的地まで長い時間歩かないといけないところを自転車に乗れたら快適ですから。

– 自転車に乗る人たちのマナー向上も今後の課題の一つですね。
駐輪場の整備が進んだおかげで違法駐車自体は減ってきていますが、代わりに、撤去された自転車を引き取らない人が増えてきているといった問題が起きています。そうなると処分費用を負担するのは行政になります。自転車にとって否定的な声が上がる状況を、自転車に乗っている人たち自身が作ってしまうのは本当にもったいない。
自転車を好きになるのが意識改革の一歩だと思っているので、Bike is Lifeの山田大五朗さんと協力して自転車の構造やマナーを教える出前講習などを開いています。好きになったら乗り捨てなんてできないはずですから。

– 橋田さんの思う、自転車の魅力を教えてください。
思ったときにすぐにまたがって出発できて、好きなところに立ち寄ることができる自由さ。好きな道を通って目的地にたどり着けるのも楽しいですね。
特に、ロードバイクの軽さと走っているときのスピード、快適さをもっと多くの人に知ってほしいです。高価なイメージを持たれることもありますが、僕は2010年に乗った自転車を今も乗っています。とてもコスパが良いんです。
何より、その土地ごとの街並みや雰囲気を走りながらダイレクトに感じられるのも魅力ですよね。「ツール・ド・フクオカ」のPRで韓国に行ったときに、現地の風を浴びながら走ったのは爽快でした。海外や他地域の人が九州に来た時に自転車で走れる環境があれば、同じようなことを感じてもらえるのではないかと思っています。

– 海外の街を自転車で走る…とても素敵ですね!印象に残っている思い出はありますか?
韓国では、自転車に乗っている人同士のコンタクトがあり、すれ違う時に挨拶してくれたり声をかけてくれたりと、自転車マナーと愛を感じました。「日本から自転車を持ってきた」と言ったら、驚かれましたね。向こうの自転車屋さんとも仲良くなって、10年ほど経った今でもSNSなどで交流がありますよ。今のところ自転車で観光できたのは韓国だけなので、他の国にも行ってみたいです。
それから、韓国は川沿いに30~50kmの自転車道を整備していて、川沿いに走れる楽しみがありました。福岡も那珂川や桶井川などがありますし、参考にしていきたいです。

– 実現したらと思うとワクワクします。今後の展望はありますか?
他地域の行政区にも自転車関連の課やセクションがあるので、交流して情報や意見の交換をしたいです。特に、岡山市は本格的に取り組んでいて、自転車専用の信号が設置されているほど。お話したら役立つヒントが得られるかもしれません。いいところを取り入れながら、福岡らしい自転車の街のあり方を模索していきたいですね。

– 本日は貴重なお話をありがとうございました。

[取材を終えて]
福岡市を「自転車の街」にすべく、議員の立場から政策を執っている橋田さん。議員の方がどのように街づくりに関わっているのか、具体的に知ることができました。福岡市と自転車への愛を根本に持った橋田さんが、よりよい街づくりをどのように進めていくのか、楽しみです。

橋田和義(はしだ・かずよし)さん

橋田和義(はしだ・かずよし)さん

1971年福岡県生まれ。福岡大学卒業後、明太子のふくやなど民間企業に勤務。2010年に所属していた福岡青年会議所の企画として「ツール・ド・フクオカ」を実施する。2011年に福岡市議会議員(中央区)に初当選し、現在三期目。自転車課の設立など、福岡市における自転車環境の整備や普及に努める。ほか、地元・六本松の九大キャンパス跡地の再開発にも尽力。